ウルトラアートの軌跡  2

五彩が放つエネルギー

 

2013年秋、「九谷ナイトズー」で手応えを感じたウルトラアート・メンバーは新たなアート作品に取りかかっていた。赤・黄・緑・紫・青(紺青)。山のように積みあがった5色の透明傘は九谷五彩を表している。毎年11月上旬に行われている「九谷陶芸村まつり」で披露されたのが、ウルトラアートの新作「九谷五彩skyパラソル」。バンブー・アートの米田毅さんが持ち前の手業でパラソルをアーケードに吊り上げ、光の回廊を演出した。

ゆらゆらと風に踊るパラソル。太陽の光は傘を通してストリートを五彩に照らす。子どもたちは五彩の円を飛び跳ね、大人たちはパラソルを見上げてシャッターを切る。誰もがキラキラと笑顔で輝いている。

 

「こんな光景が見たかった」

 


ウルトラアート・メンバーもどれだけ勇気づけられ、何度、頬を緩めただろう。何の変哲もない傘がアート作品に変わる。それをアートにしているのは紛れもなく「九谷五彩」というこの地の宝。360年前に始まった九谷の歴史を紡いできた先人たちは、この五彩が放つ、とてつもないエネルギーをすでに知っていて、意図的に使ってきたのだろうと推測できる。あのスティーブ・ジョブスもキーノートに採用した基本カラーが、実は五彩とほぼ同じであることに気付いている方は少ないだろう。彼が世界を凌駕した遥か昔から、九谷に携わる人たちはこの5つの色に磨きをかけてきた使い手だったのである。

 


20131124日 「九谷陶芸村まつり」 九谷陶芸村

身近なものをアートに

 

辰口・寺井エリアに続き、根上エリアでもウルトラアートの作品を。クリスマスに合わせ、能美市根上学習センターに高さ5.7メートルの巨大な光のツリーが現れた。その名も「ウルトラアート五彩ツリー」。テーマは「宇宙」。北野道規さん、戸田秀昭さん、米田毅さん、山谷尚敏さん(山谷漆工房)の同世代の熱きオヤジたちが渾身のアートを作り上げた。

能美市民の協力で集められたペットボトル441個と4000個のLEDライトが使われ、五彩の輝きを放つ。近年、ペットボトルを使ったアート作品が数多く作られているが、ウルトラアートでも「のみフェス」での「光のゲート」やゲスト・アーティストによる作品展示が行われる。将来的には能美市の未来を輝かせる市民参加型のアートに育てたい。その可能性を感じさせるツリーだった。

 


201312月末~翌1月末 「ウルトラアート五彩ツリー」 能美市根上学習センター

リボーン(再生)

 

20147月。ウルトラアートとしては初となる単独イベント、「辰口温泉ウルトラアート七夕縁日」が2日間にわたって行われた。温泉も能美市の大切な地域資源のひとつ。かつては最大13軒の温泉宿が並び、明治の文豪・泉鏡花も通ったという辰口温泉。現在は「たがわ龍泉閣」・「まつさき旅館」の2軒となってしまったが、「田んぼの湯」など斬新な試みも行われている。

 


この七夕縁日からウルトラアートに参加したのが、Oka-gこと岡嶋健一さん(空間プロデュース、デザイナー)。竹を使って辰口温泉の象徴でもある龍をモチーフにした「竹龍」を創り上げた。しなやかな曲線が重なり合って、それはまるで生きているかのごとくひときわ存在感を放っていた。夜は五彩カラーの照明によって時には荒々しく、時には妖艶に、かと思えば漆黒の闇に浮かぶ精霊のような深い青に染まり、見る人の心を奪っていった。

 

後日、岡嶋さんには「たがわ龍泉閣」から新作のオーダーが入る。2014年暮れから、玄関前に飾られている「竹龍」をご覧になった方も多いのではないだろうか。こうした作品制作がビジネスにつながることもウルトラアートにとっては「アーティストを育てていく」上でとても重要なことだと統括ディレクターの北野さんは話している。アーティストがアーティストとして生きていける世の中。誰にでもその道が開けることがウルトラアートの願いでもある。

 


里山の湯のエントランスには五彩の風船がゆらゆらと揺れている。米田毅さんの新作となる「五彩・風船の森」だ。秀逸だったのは水道パイプの凍結を防ぐ発砲スチロールのカバー。これに針金を指して風船をぶら下げるアイデアは職人気質の米田さんならでは。とはいえ、膨らませては吊っていく地道な作業。アートは忍耐力も必要なのだと実感させられた。

 


風船を見上げ、にこやかな表情でエントランスを通る人たち。ちょっとした発想でこんなにも人を惹きつけるアートは、実に奥深くて面白い。難しくする必要は何もない、ただ見ているだけで人の五感をくすぐってしまうのがアートのチカラなのだろう。かつて温泉街のすぐそばでは農耕馬を使った草競馬やモトクロス・バイクのレースまで行われたという。それほどの娯楽と活気があった。ウルトラアートは地域のタカラを磨きながら、アートという新しい視点でにぎわいを取り戻そうとしている。その可能性を大いに感じさせた2ディズ。目を輝かせて風船を見上げていた浴衣姿の女の子たちの表情が忘れられない。

 

「五彩・風船の森」と合わせて、玄関前には白山や九谷の映像が映し出された。同時に「たがわ龍泉閣」と「まつさき旅館」には浮世絵が浮かび上がった。近年、アート作品などのオープンデータ化が進み、北斎などの絵もシェアフリーになっているものがあることをご存じだろうか。九谷の作品もインターネットの世界では閲覧できる作品画像が少なく、世界に通じる「ジャパン・クタニ」が埋もれている傾向にあったかも知れない。ウルトラアートではこのオープンデータにも取り組みながら、新たなアート作品とのコラボレーションを仕掛けてきた。温泉宿への映像投影もそのひとつだ。

宿の外壁や茶室のある東屋に浮かぶ妖艶な世界。九谷の色絵と四季折々の白山、可憐な高山植物や愛らしい野鳥たちが折り重なって、生き生きとした花鳥風月の世界が広がった。

 


201471213日 「辰口温泉 ウルトラアート七夕縁日」 辰口温泉・里山の湯

このオープンデータ、シェア・アートという新たな視点で生まれたのが、赤絵の祖と呼ばれた斎田道開の赤龍をモチーフにした新ブランド、「Dragon九谷」だ。能美市佐野町は九谷焼の赤絵で隆盛を極めた土地。町内の狭野神社には道開を祀る陶祖神社があり、かつてはここで「茶碗まつり」が行われていた。いわば、この地の神様を触るということにもなる。しかしながら、この伝統の赤絵の技を能美市民である私はほとんど知らなかった。長きにわたって愛され、約100年前のパリ万博では世界を驚嘆させたにも関わらず・・・

「伝承」の難しさ。地域のタカラを生かすも殺すも現代に生きる私たち次第だ。その類稀な技を受継ぎ、後人の育成にも取り組んでいる福島武山さんら素晴らしい作家も存在するが、このふるさとのタカラをこのまま埋もれさすわけにはいかない。その思いが詰まっているのが「Dragon九谷」ブランドなのである。

 


白山山頂にて「Dragon九谷」とともに